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2019年12月24日火曜日

わかめの日㉔


かめくんが戻ってきてからは、私たちはなぜだか潮が引いていくかのように帰り支度をし、当然のように3人黙って玄関まで行った。

私はわかめの資料をいくつかイサトさんから貸していただいた。すぐにお返ししますと言うと、「ゆっくりで」とイサトさんは今ここにはない先の事をすでに約束したかのような優しい、でも少し心ここにあらずといった顔をした。

それで私も黙ってうなずいて玄関を出て少し前の道まで進んでいったが、かめ君とイサトさんはまだ玄関口で少し何かを話しているように見えた。

それから二人はお互い頭を下げて挨拶をした。イサトさんは再び私のほうを見て「うん」というように頭を下げ、手を振った。私も深く深く頭を下げた。

イサトさんが家の中に帰っていき、私たちは帰り道、また海岸の方に寄ってみることにし
た。

道すがら一応かめくんに聞いてみた。
「ねぇ、かめくん。アトリエから出てきたときすごく複雑な顔をしていたように見えたけど大丈夫だった?何かあった?」するとかめくんは、
「うん、うーん?複雑?そうか複雑か…いったい何と言ったらいいのか、いや言っていいのか、何だったんだあれは、あれでよかったのか?」などと言ったので、
うん、そっとしておこう。と思った。

いつもなら私は好奇心に負けて、無理矢理でもかめ君から聞き出そうとする性分なのだけれど、特別きょうのかめくんは混乱しているように見えた。

海岸に着き、潮風に当たっていたらかめ君がふと
「でも僕はどうしたって、自分が興味を持ってしまったら、ましてやその人が扉を開けてくれたら入ってしまうたちなんだ」と言ったので、何て言ったらいいのか分からなくなった。

----私は、どうなんだろう…。
私はどちらかというと人より自分。自分の心を覗いて、好きなことをささやかでもいいから集めて積み重ねていきたいかな…等と考えていた。

だから私は私で、思わぬなりゆきで今日という日をこんな風に過ごせて、満足しているのだ。(色々な人にお世話になり、また迷惑をかけながらも…)

遠くの水平線を見ていたら後ろからかめくんが、
「ねぇわーちゃん、結局今日は何の日だったんだろう?」
と聞いてきたので、私は海に向かって
「わかめの日!」と叫んだ。






   おわり

2019年9月24日火曜日

わかめの日㉓


「・・・はい」と、イサトさんに返事をしたのは、
まるっきりその気持ちが分からないというわけではなかったから、特に『生きていると不運が予兆もなく・・・』という所。私はイサトさんほど年を重ねた訳ではないけれど、物事の大きさ関係なくそういう事はやはり生きているとあると思うし、実際私も経験した。(もちろん今回の何の日か決めようイベントの件ではなく・・・)

大体、何か不幸が起きた時にそれがその人にとってどれだけ大変な事かなんて、他人には図れない。他人にとって『なんだそんなこと・・・』と言われてしまうようなことだとしても、その人にとっては人生で最大の難関だと感じる場合もあるだろうし、実際それはその人にとって間違いなく『大変な事』で、そういう時に感じる気持ちは皆通ずるものがあると私は思う。

この時、なぜか私は今日初めて会ったイサトさんに、心の内をすべてさらけ出して話したいという感情を持った。何がそうさせるのかはわからなかった。

けれどイサトさんは、それに対してうんうんと無言で頷いた後は、また窓の外を見つめ続けた。

道半ば・・・イサトさんの横顔を見ていたら、漠然とそんな言葉が浮かんできた。
まだ何かがイサトさんの中ではっきりと決まっていない感じ、未完成の作品、決着がついていない出来事。そんなところだろうか。

作品だとしたらあのわかめの絵は、迷いの感情・曖昧な色合いと自身で評価していたが、私はそれすらも何かメッセージのこもったものとして受け止めた。はっきりいうと未完成には見えなかった。(もちろん私が決められることではないけれど)
では出来事だろうか?何か他人の絡んでいる、例えば誰かを待っているようにも見える。 待っているってかめくんの事?いやいや確かに読み終わるのを待っているだろうけど、
私たちは今日知り合ったばかりだし・・・

そこまで考えて、「あ・・・」と私は声に出しそうになって慌ててそれを抑えた。
あの日記、確か暗い内容だとイサトさんが言っていた。あの中にその「大変な事」が、
書かれているとしたら・・・決着がついていない出来事の一部始終が。

ああ~なぜそれに気が付かなかったんだろう・・・私も彫金のモチーフの事で頭がいっぱいになっていたし、暗い内容と言ってもせいぜいイサトさんの、例えば絵を描くときに悩んでいた気持ちや、メモ書きのようなものだろうと都合よく解釈していた。

・・・ということは、かめくんは想像以上に重い内容の日記と向き合っていることになる。
ただでさえかめくんは、他人の感情に共感しやすいのに大丈夫だろうか?

などと考えていたらアトリエの少し開いたドアがグイッと開きかめくんが姿をあらわした。

顔色は少し紅潮し、僅かに焦点も定まっていない!
あらら・・・やはりそうか、と思った。




2019年5月4日土曜日

わかめの日㉒


私は元にいた部屋のダイニングチェアに再び座り、テーブルに置いたままのワカメの資料をもう一度見直した。

しばらくたつとアトリエからイサトさんだけが出てきて、ドアを完全には閉めず、ほんの少しだけ隙間を空けてから、テーブル越しの斜め向かいに座った。

なぜ、ドアを完全に閉めないんだろう・・・
隙間からかめくんが見える、
アトリエの床に座り、本棚の脇に置かれたミニテーブルの上に先ほどの日記を乗せて読んでいた。

イサトさんは、相変わらず穏やかな表情をしているが、僅かに緊張しているようにも見えた。

斜め向かいでテーブルに肘をつき、手に顎を乗せ何となく窓の外を見ている。

私が資料を見るのをやめて、そんなイサトさんの表情に気をとられているのに気付くと、
イサトさんは一瞬私と目を合わせ、再び窓の方に顔を向けると、ついでのように言った。

「大げさかもしれませんが、生きていると不運が予兆もなく、大きなうねりを伴った波のように襲ってくる時がありませんか?いや、予兆はあったのかもしれないが、僕が気が付かなかっただけかもしれない。あのわかめの絵はまさしくそのうねりの中で、自分の心を落ち着かせるために描いたものです。」









2019年4月27日土曜日

わかめの日㉑


「すみません。勝手に、綺麗な表紙で海藻か何かの本だと思って」
「ああ、気にしないで大丈夫だよ、確かに表紙のケルプか何かかな?海藻のデザインが綺麗でしょ、一昔前はそういった重厚な表紙の日記帳が結構売られていたんだけれど、今は機能性かな?あまり見られないね。」
「すみません」
かめくんがいうと微笑んでいたイサトさんは笑って
「いや、本当に気にしないで、むしろそんなの読んでくれても構わないよ。読んで後悔しないのなら、暗い内容だよ」と茶化す様に言った。
「え、いや、そんな・・・」

・・・なんてかめくんは困ったそぶりを見せていたけど、私にはわかる、かめくんは読みたいのだ。一度誰かに興味を持つと、その心の中も覗いてみたくなる、それを誰かにいいふらすなんてことは決してしないけど、とにかく知りたくなるのだ。

私はニヤリと静かに笑って、一人でアトリエを出て元にいた部屋に戻った。










2018年12月18日火曜日

わかめの日⑳


そしてイサトさんは、
「いや、まぁだからと言って、生物学的にどうとか環境的にどうとかそんな大きなことではないんですが、僕はそういった事に全然詳しくないし」と少し恥ずかしそうに付け足して言った。

でもそんなことは、イサトさんが本当に言いたいことはその絵を見ていたら分かる。

わかめ、ワカメ・・・若芽、どんな風に呼ぼうか・・・
どれだっていい、わかめを取り巻く輝く世界。薄明るい海中から手を伸ばして空まで届き、今度はその穂先がそこから天までへも引っ張り上げてくれそうにさえ見える。

それがどのように生き物として呼吸しているのか、そういったことを想像させる気がした。そしてそれを表現できるのはやはり、仕事としてわかめと長い間かかわってきた経験があるからこそなんだろうと思った。

「イサトさんはわかめが大好きなんですね」と色々思いはあったけど、上手く言えずにそれだけ言った。
「そうですね、僕は結局わかめが大好きです。」イサトさんもまた私と同じような感じで言った。

「さあ、あちらの部屋に戻りますか、まだ見せたい資料はありますよ。でも彼はもう少しこの部屋にいたほうがいいのかな」

みるとかめくんが一冊の本のようなものを手にしてそれを開いたところだった。
その中身を見てかめくんは慌てて本を閉じた。








2018年12月16日日曜日

わかめの日⑲


私はそのわかめの絵をよく観察してみた。
・大きなキャンバス
・薄いグリーンのような色調
・海の中のような感じ(何か生き物のようなものも見える。藻のようなものも)
・キャンバスの中央辺りに大きなわかめのような海藻が描かれている
・その大きなわかめは不思議な色合い。茶色のような緑色のような。わかめの細かいしわや光の当たり具合も表現されている。

私がその絵をまじまじと見ていたらイサトさんが
「本当はわかめは海の中で茶色くみえるんです。それから私たちが工場で加工するためにまず湯通しすることによって、皆さんがイメージするわかめの色つまり緑色に変わるんです。」といった。

私達がへぇと小さな感嘆の声を上げると、
「でも、絵画教室に行ってじゃあ一番身近なわかめの絵を描いてみますかと言われた時、私はわかめのことを何も想像できなかった。もちろんわかめが海の中ではどんな様子なのかは知っています。けれどそれは経験からくる職業的な知識に過ぎなかった。わかめがひとつの商品ではなく生きたものとしてどのように海にただよい、また他の生物にたいして、ひいては海全体の世界に対して、どのような影響を与えているのかなんて考えたこともなかったんです。だからきっと急に現れたわかめに対する迷いのような感情が、その中央のわかめに曖昧な色合いを与えたんでしょう。」と言った。









2018年10月28日日曜日

わかめの日⑱


「あの、さっきから気になっていたんですけど、このドアにアトリエって書いてますが、なにか制作をされているのですか?」とかめくんは言った。

見ると確かに部屋に入ってすぐ左手にドアがあり、そのドアにはatelierと書いてあるプレートが掛かっている。私は部屋に入った時にわかめの資料の事で頭がいっぱいだったから気が付かなかった。

「ああ、これは昔油絵を描いていた時があったんですよ。中を見てみますか?」
と言ったので入れてもらうことに。

中に入ると懐かしい雰囲気というのだろうか、昔の外国映画にでも出てきそうな感じ。

背の高い本棚が沢山あって、本棚の脇には一つだけ木でできたミニテーブルが置かれている。そのほか所々には描きかけのキャンバスが数点本棚に添って立てかけられている。

正面の壁には、確か外からこの家を見たときに海外の家の窓みたいだなと漠然と思った上げ下げ窓が二つ付いている。そしてその窓の光を十分に浴びている場所に大きなキャンバスが一つ、他のどのキャンバスよりも存在感を放っていた。

それを見てイサトさんは懐かしいような目で、
「ああ、これは一時期、一番熱心に描きこんでいたわかめの絵です」といった。







2018年9月30日日曜日

わかめの日⑰

9/28追記~
これからですます調の書き方をやめて、本人の日記をイメージして書いてみます。
よりメモ書きみたいになるかも・・・

わかめの日⑰

早速私はわかめの資料を見せてもらうことにした。イサトさんは「そうだったね」と手を打ち、ガラスの扉がついている本棚を開けて「これと・・・これもか・・・」と言って、
ふんふんと頷きながら本棚のファイルを探り、いくつか取り出して見せてくれた。
ワカメのアップの写真、全体を広げた写真、茹でているところと、茹で上がったワカメ。色々あって嬉しい。

私は写真を夢中で見ていたんだけど、かめくんは部屋の様々なものに興味があるみたいだった。壁に干されたワカメ、植物、本棚の本、壁の材質にまで「なんかこの壁、質感と色がいいですね」何て言っている。もしかしたら時間を持て余しそうな気分になっているのかな?すこしそわそわしているようにも見える。

イサトさんはマイペースで何も気にしていないように見えた。
ぼんやり椅子に座ってテーブルに肘をついていたかと思えば、私を見てにっこり笑ったり(やっぱり目じりのしわがいい感じ)、ふと「ああ、そうだ」といって立ち上がり、
本棚の本を取り出して立ったまま読んでいたり・・・

まぁいいや気にしないでおこう・・・と思ってもう一度わかめの資料に目をやる私。

するとかめくんが沈黙に耐えられなくなったのか、それともどうしても気になることがあるのか「あの・・・」と小さな声で言った。






2018年6月22日金曜日

わかめの日⑯



防波堤に添って15分ほど歩くとイサトさんの家にたどり着きました。

イサトさんの家は外から見ると他の家との違いといえば、まるで外国の古い家についているような小さな上げ下げ窓が付いているくらいで、あとは家の形なども普通の民家でほかとのちがいはなく、逆にその窓が少し違和感があるくらいでした。つまり全体的には、港町にある他の家々とこれといって違いはないような感じだったんですが、中に入ると温かい雰囲気の洋風の部屋で、茶色い木の床と薄いアクアブルーのような色の壁、テーブルや窓辺には植物がたくさんありました。

そして一番驚いたのは、壁に干したワカメが飾ってあったことです。
部屋全体と干しワカメに感動して、「おぉ」と思わず声を出すと、
イサトさんは壁のワカメをぱりっと割り、
「たまにこんな風に取って料理にも使いますよ。一人暮らしなんでね、料理は好きです。」と言いました。










2018年4月16日月曜日

わかめの日⑮


するとkameくんも、
「そうなんです!僕たちあの組合長さんにははっきり言って怒っていまして、書き換えられていて何だか嬉しかったんです」
といってくれたので救われた気持ちになりました。

するとイサトさんも、
「じゃあ僕が組合長さんに対する仕返しに、一役買ったというわけだな」
と言い、また朗らかに笑ったので私達も頷きながら笑いました。

それはとても素敵な時間だと思って、今がずっと続けばいいと不思議な気持ちにさせました。

そんな気持ちもあり、どこかで焦ってしまったのかもしれませんが、
まだニコニコしている二人に私は、
「あの、わかめの事を詳しく教えてくれませんか?私は彫金でアクセサリーを作っているのですが、そのモチーフにしたいのです」と言いました。

「それは、僕の会社のわかめを育てているところを見せたらいいのかな?
ただ今の時期は植え付け直後で誰も作業をしていないし、養殖縄にも小さな芽が巻き付けてあるだけなんだよ」とイサトさんは言って少し考えたあと、

「よし!じゃあ今から君たち僕の家に来るかい?家ならわかめの資料がたくさんあるよ」
と言ってくださったので、
「ありがとうございます!」と私は言って、kameくんもぺこりと頭を下げました。




わかめの日⑭


ひとしきり笑った後、
「なぜわかめの日と書き換えたんですか?」と単刀直入に聞くと、
イサトさんの顔から笑顔が消え、少しの間沈黙してから、

「自分にとって何が一番大切かを考える日」

とつぶやきました。その目はどこか遠くを見ているようでした。

私達がきょとんとしていると、イサトさんはふと我に返り、
「そう掲示板には最初書いてあったんですよ。僕は昔からそういう難しいことを言われると、何かしら反発心がむくむくと湧き上がってくるようなひねくれた人間なんです」

と少し笑ってそういいながら、足元の空間に持っていた乾燥ワカメで、くねくねと八の字を描いていました。

そうしてからその作業もやめ、今度はまっすぐ私たちの方を交互に見てから、
「すまなかったね。何か君たちに迷惑をかけてしまったんじゃないだろうか?」
といったので、私のほうこそ嫌なことを忘れるためにただ楽しんでいただけなのかなと申し訳ない気持ちになり、
「いいえ、とんでもないです!」と言いました。






2018年4月10日火曜日

わかめの日⑬


その男の人は、加工品店の店長さんの言う通りの人だった。

・初老で頭が少し白髪交じり
・背がひょろりと高い
・笑うと目じりにしわがよってとても良い笑顔
・そして何より独特の雰囲気(言葉には表現しづらいのだけど、良い意味で子供のまま大人になったような、マイペースそうな・・・飄々としている?とにかく独特の空気を醸し
出しています)

私はこの人に間違いないと思ったので、店長さんから預かった小さなメモをその人に渡しました。

そして簡単な自己紹介をし、事のいきさつを話しました。
男の人はメモを読むと、あとは私たちの話を静かに聞いていました。

男の人は僕の名前はイサトですと言い、その大きな手で私たちと握手をすると、
小さなメモをズボンのポケットにしまいながら、にやりとわらって
「それで刑事さんたちは、『わかめの日』と掲示板に書き換えた犯人は私だと言いに来たのかい?」
と言ったので私は思わず笑ってしまい、後は三人で大笑いしました。






わかめの日⑫


勇気を振り絞ってその男の人にかけた第一声が、
「私達はポプラ通りから来たものです。」という言葉でした。

ポプラ通りとは、私たちの店「MILUZDROP」がある山の中腹に作られた商店街の名前です。

とはいっても、商店街の街路樹にはポプラは所々しか植えられておらず、ポプラはそうたくさんありませんが、商店街の裏手にはポプラ並木があり、さらにその道を進んでいくと森の中のけもの道となって、やがて山の頂上に到着します。

さすがに山の頂上は商店街からは見えませんが、ポプラ並木は十分な迫力を持って商店街を見下ろしているかのように見ることが出来ます。

そして初夏になるとポプラの綿毛がたくさん商店街にも飛んできて、
まるで初夏に雪が降っているかのような見事な景色が見られます。

また、そのことについては書きたいことがあるので別の機会に書かせてもらいます。

話がそれましたが、その人は私たちの突然の自己紹介にも動じることなく、
「ポプラ通り?・・・ああ、あの山の中腹の!」と言って、
目じりにしわを寄せ、にっこりと笑ってくれたので私は少しほっとしました。







2018年1月28日日曜日

わかめの日⑪


海岸へ無事にたどり着くと、今度は「どうしようか?わかめでも探す?」
などと二人で話しながらテトラポットの間などを探しましたが、
フジツボやフナ虫がいるだけでした。

途方に暮れていると、海岸の向こうの方から、太陽の逆光を浴びて人影がみえてきました。

顔ははっきり見えなかったのだけど、背が高く左手に小さなビニール袋のようなものをさげ、右手にはなぜか大きな乾燥ワカメを持っていたのです。

私達は顔を見合わせて、
「あの人だよね!絶対あの人だ!」
と言いあいました。

「あのう、すみません」とおそるおそる私たちが声をかけると、
ゆっくりとその人は私たちに近づいてきました。




2018年1月19日金曜日

わかめの日⑩


防波堤まで着くと、周りは今までの住宅街とは違っていて古い集会所のようなものがあり(集会所の立て札には港町集会所と書いてあった)、古い民家のような家々が点在し
どうやら港町の入り口に来たようでした。

ここから防波堤に添って右のほうを遠くまで眺めると、民家のほかに古くからある小さな工場などもいくつか見えて小さいながらも人々が集まり、しっかりとコミュニティーを築いてきたんだなと感じます。

kameくんがふと思いついたかのように
「ねえ、結局この社長さんに会うにはこの海岸に行くといいって言われてきたけど、その社長さんの会社名どころか名前も聞いてないってよく考えたらすごいね」
と言ったので、私も可笑しくなってきて二人で笑ってしまいました。

気を取り直して背の高い防波堤に立てかけられた錆びた青い梯子を上ると、反対の砂浜側はコンクリートのしっかりした階段があったので、少しほっとして降りることが出来ました。






2017年12月28日木曜日

わかめの日⑨

本来ならバスでくるくると降りて行ってもいいほどの遠い距離を私たちはひたすら歩き、やっと山のふもとにたどり着きました。
山のふもとはまだ海岸や海辺の町までは結構な距離があり、そこにたどりつくまでずっと開発中の住宅地が続いています。

家もまばらで店などもなく、歩いていると小さなスーパーがやっとひとつ見つかったくらいです。

私達も2年ほど前に山の中腹の商店街で店を始めたので、まだ下町の事はよく分からないことがいっぱいなんです。
噂では開発中の住宅地の中心部に、建設が途中でストップしているショッピングモールがあるとか・・・そしてそこは一階の中庭フロアだけ解放していて入ることが出来るそうです。

噂と書きましたが、実はこれ最近通りの端に店を構えた古本屋のご夫婦から聞いた話なんです。仲の良いご夫婦で、なんでもハイキングがてらにそこまで行って中庭でお弁当を食
べてきたのだとか・・・

奥さん曰く「とにかく独特の雰囲気だから一度行ってみる価値はありますよ。中庭というか廃虚というか、ああそうだ、洞窟みたいな雰囲気なんです」とのこと。
洞窟みたいな中庭?想像もつきません。
また一度いってみたらこちらに書いてみますね。

話がそれてしまいましたが、そんなぽつぽつと住宅が並ぶ下町を歩きながら、古本屋の夫婦の話を思い出してkameくんと話をしているうちに、何とか海岸のそばの背の高い防波堤にたどり着きました。

2017年6月8日木曜日

わかめの日⑧

すると店長さんは「いいですよ」と 、割とあっさり私たちと社長さんが会えるように手配してくれました。

 ただ、手配と言っても今日はわかめの製造工場が休みの日なんだそうで、そんな日はいつも社長さんは、決まって携帯電話も持たずに海岸を散歩するのだそうです。

それなのでと、店長さんはメモ用紙にさらさらとペンで何かメッセージを書き、ちぎってそれを小さく折りたたむと、これを社長さんに渡してくださいと言って私たちに預けられました。

そしてさらに、社長さんの主な特徴を教えて下さいました。

社長さんの特徴は、背がひょろっと高く髪の毛は少し白髪交じりで、笑うと目尻にしわが寄り、すごく素敵な笑顔をしているんだそう。

それでわかるのかな?と私たちは不安になったんですが 、店長さんは、 
「本当に なんか独特の雰囲気がある人だから 絶対分かると思います。」
と言いました。

きっとわかるという店長さんの言葉を励みに、私たちも山を下り海岸までかなり遠いですが、歩いて社長さんを探しに行こうということになりました。

2017年6月7日水曜日

わかめの日⑦

店長さんが教えてくれた話はこうです。
つまり「あの人」とは 、加工品店に仕入れている 乾燥わかめの仕入先の会社の社長さんとのこと。 
なんでも、とても変わっていてユニークな人なんだそうです。
でも、わかめに対する愛情はそれはそれは人一倍で、
掲示板にそんなことを書くのはおそらくあの人ではないのか?との事。

~わかめに対する愛情 ~ 何故かその店長さんの言葉を聞いた時に、
頭にぱっと閃光が走ったように作品のアイデアがよぎり、何故か無性に作品作りがしたくなりました。

話を聞いてそのままかもしれないけれど、わかめのデザインの指輪。

そんな感じのイメージが浮かびました。
そのことも含めそして、 そもそも私たちは、
いいえ私はあのにっくきイベントに苦しめられた身として(笑)、
「わかめの日」と、掲示板に書いてある謎についても調べなければいけないので 、
「是非ともそのわかめの社長さんに会わせて下さい」と、店長さんにお願いしました。

2017年6月6日火曜日

わかめの日⑥


さて前回の続き、投函箱の話でしたよね。

そうなんです!組合長さんと私以外、誰ももうこのイベントに参加していなかったということなんです!何という事・・・
しかも、投函箱なんてあってもなくても同じこと。
もし誰かが良いアイデアを提案したとしても、なんだかんだとごねて結局組合長さんのアイデアを採用するそうなんです。知らなかった・・・

とんだ「厳正なる審査」です!

加工品店のお店の中で、私はただひたすらに落ち込んでしまいました。

だって自分が情けないじゃないですか、ああでもないこうでもないと言ってkameくんに迷惑をかけ、あげく一生懸命やっていたのは私と組合長さんだけだったなんて・・・

そんなこんなで、加工品店でぐったり落ち込んでいると、
最初は笑っていた店長さんがさすがに心配してくださって
「大丈夫ですか?」と焦りだしました。
私は「大丈夫です」と笑顔で答えたつもりだったのですが、
顔が引きつって笑えていない状態でした。

そして、きまり悪そうに店長さんは
「その唯一最後まで投函箱にアイデアを入れ続けていた人ってもしかして君かい?」

といったので、わたしは恥ずかしさやら落ち込みやら、もう自分の感情が訳が分からない状態で泣きそうになりました。

見るに見かねてkameくんが、
「まぁちょっとムキになってやっちゃった所もあるのかな?ははは」と、
フォローなのか何なのかよくわからない、まぁ一応のフォローをしてくれました。

「そっかー・・・」と店長さん、気まずそうに頭を掻いたりしながら何と言ったらいいのか分からない困った様子だったので、私もいつまでも落ち込んでばかりはいられないと気を取り直し、そもそもこのお店を訪れた本題、例の掲示板に書いてあった「わかめの日」の謎について話しました。

私たちが、これはどうも組合長さんが書いたものではない気がするというと、
店長さんは、ぱっと表情が明るくなり、
「あぁ、それならきっとそれを書いたのはあの人じゃないかな、うん、あの人しか思い浮かばない」と笑いを噛みしめながら言いました。

kameくんと私は同時に「あの人?」と店長さんに聞いてしまいました。

2017年3月10日金曜日

わかめの日⑤


店長さんは続けて言いました。
「あれね、完全なるやらせ。組合長さんの自作自演のイベントらしいですよ」

そう聞いて私は、頭がガーンっと木槌か何かで殴られたような気がしました。

なんでも店長さんによると、加工品店の前の店長さん、つまり今の店長さんのお父さんが組合長さんの奥さんと昔からの知り合いで親しくしていて、よく組合長さんの愚痴を聞かされるそうです。それでたまたま店を引退したお父さんが、久しぶり店にきて店長さんと働いていた時に、その奥さんが店に顔を出してきて延々と、また愚痴を聞かされたそうです。(それは店長さんも一緒に聞いていた)

その今回の愚痴というのが、例のイベントの事。
奥さんが言うには、組合長さんだけがそのイベントに夢中になっていて、
商店街のみんなは迷惑している、皆にもう毎月毎月何の日か決めて何かするのはちょっとイベントを行う頻度が高すぎるから、
何とかなりませんか?と、奥さんに苦情が来るとの事。

しかも、あの投函箱の謎も明かされたのです!

謎とはつまりこういう事、あの投函箱には実は皆嫌気がさしていて、今となってはアイデアを投函する人なんて誰もいない。
いや、正確には二人の人物以外は誰も投函しない。

つまり、組合長さん自身と、この私以外は・・・。