2019年9月24日火曜日

わかめの日㉓


「・・・はい」と、イサトさんに返事をしたのは、
まるっきりその気持ちが分からないというわけではなかったから、特に『生きていると不運が予兆もなく・・・』という所。私はイサトさんほど年を重ねた訳ではないけれど、物事の大きさ関係なくそういう事はやはり生きているとあると思うし、実際私も経験した。(もちろん今回の何の日か決めようイベントの件ではなく・・・)

大体、何か不幸が起きた時にそれがその人にとってどれだけ大変な事かなんて、他人には図れない。他人にとって『なんだそんなこと・・・』と言われてしまうようなことだとしても、その人にとっては人生で最大の難関だと感じる場合もあるだろうし、実際それはその人にとって間違いなく『大変な事』で、そういう時に感じる気持ちは皆通ずるものがあると私は思う。

この時、なぜか私は今日初めて会ったイサトさんに、心の内をすべてさらけ出して話したいという感情を持った。何がそうさせるのかはわからなかった。

けれどイサトさんは、それに対してうんうんと無言で頷いた後は、また窓の外を見つめ続けた。

道半ば・・・イサトさんの横顔を見ていたら、漠然とそんな言葉が浮かんできた。
まだ何かがイサトさんの中ではっきりと決まっていない感じ、未完成の作品、決着がついていない出来事。そんなところだろうか。

作品だとしたらあのわかめの絵は、迷いの感情・曖昧な色合いと自身で評価していたが、私はそれすらも何かメッセージのこもったものとして受け止めた。はっきりいうと未完成には見えなかった。(もちろん私が決められることではないけれど)
では出来事だろうか?何か他人の絡んでいる、例えば誰かを待っているようにも見える。 待っているってかめくんの事?いやいや確かに読み終わるのを待っているだろうけど、
私たちは今日知り合ったばかりだし・・・

そこまで考えて、「あ・・・」と私は声に出しそうになって慌ててそれを抑えた。
あの日記、確か暗い内容だとイサトさんが言っていた。あの中にその「大変な事」が、
書かれているとしたら・・・決着がついていない出来事の一部始終が。

ああ~なぜそれに気が付かなかったんだろう・・・私も彫金のモチーフの事で頭がいっぱいになっていたし、暗い内容と言ってもせいぜいイサトさんの、例えば絵を描くときに悩んでいた気持ちや、メモ書きのようなものだろうと都合よく解釈していた。

・・・ということは、かめくんは想像以上に重い内容の日記と向き合っていることになる。
ただでさえかめくんは、他人の感情に共感しやすいのに大丈夫だろうか?

などと考えていたらアトリエの少し開いたドアがグイッと開きかめくんが姿をあらわした。

顔色は少し紅潮し、僅かに焦点も定まっていない!
あらら・・・やはりそうか、と思った。




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