2021年2月8日月曜日

空のルアー⑥

 
「そうしたら今度はまあ、わしの怒りをよそに人懐こい笑顔で、『おじさん』って、そんな風によばれたんだよ彼におじさんおじさん。ってね。それでおじさん。本当は外道はすぐリリースするものだけど、その魚はそのままにしていたらやがて腐ってハエがたかるから、ごみと一緒に捨ててあげたらいいんですよ。それが釣り人のマナーです。それに干からびた魚を海に捨ててもしばらく浮かんだままだし、やはり腐って魚にも海にも良くないですよって。」

それを聞いて私たちは、「なるほど」と納得の声を上げた。

私はその青年に対してムカッとしてしまったことを少し後悔した。

「なぁ、それでわしも大した青年だと感心してしまって、それに彼は釣りもうまくてなあ。今日はここに行けば釣れる。このエサを使えば、ここに投げればといった感じで、機転が利くんだな。判断のスピードは釣りに必要みたいだ。わしはそのあたり苦手でな、タイミングが中々掴めなかった。だからだろうか、彼に随分心酔したなあ。どこへいくにも一緒に付いていったよ」









空のルアー⑤

 
「うん、わしもそうやってなんだこれはと、その魚を観察していたんだよ。忘れもしない初めて釣りをしようと見よう見まねで道具をそろえて堤防にいったときのことだ。もう30年も前の話だ。」おじいさんはその時を思い出すかのように、ジェスチャーで干からびた魚を覗き込むふりをした。

「そうしたら、その様子を当時のわしより20くらい若い20代前半くらいの青年にみられてね。どうしたんですかって声をかけられたんだよ」

「ほう」かめくんの少し間の抜けた返事におじいさんは少し気が緩んだ感じになって、
「すまんなぁ退屈だな。こんなじいさんのはなし」といったので、
「いいえ。気になりますその話」かめくんは首を振ると確信に満ちた声で言った。

「うん、だからわしは正直にこの魚が気になってずっと観察をしていたんだといった。そしたら青年は驚いた顔で、その魚は外道と言って釣り人が狙っていた魚じゃないんで、おそらくそこに捨てられたんです。とさも当たり前のように言ったんだ。」

「その日釣りを始めたわしは初めての事だったから、すごくその魚が可哀想になってしまってそのまま海に帰してしまったんだよ。干からびているのに」
かめくんと私はおじいさんの気持ちがわかるから同意するように頷いた。

「青年はええっと驚いてどうしたんですか?なぜ海に捨てるんです?と聞いてきたから、またわしは素直に、可哀想だから海に帰したといった。そしたら青年が笑って面白い人ですねと大きな声でいったんだよ」

私はその話を聞いて「面白いですかね?それ」と素直におじいさんにいってしまった。

おじいさんは私に同じだというような感じで指をさし、
「わしもいったんだよ青年に、面白い?ではどうすればいいんだって。少し腹が立っていたのかもな。人間の安い同情心を笑われた気がして」




空のルアー④

 

「答えなぁ…答えと言やぁ。昔堤防に行ったら、からからに干からびた細長い魚が打ち捨てられていたんだよ。これは後から知ったんだが、だれか心無い釣り人が、狙っていた本命の魚じゃないってんで海に逃がさず堤防に捨てたものだったんだ。」

おじいさんは店内に置かれた椅子に腰かけながら言った。
「なぁ君たちならそんな干からびた魚をどうする?」

干からびた魚… 干された魚なら美味しそうと思うはずだが、本命じゃないから捨てられたとなると途端にかわいそうに感じるかもなぁ…と私はため息をついた。

そんな私の気持ちを知ってか知らずか、かめくんも自分の気持ちを整理するかのように「ふむ」と喉の奥から小さな相槌のような音を出した。

「正直、僕なら気が付かないかもしれません。けれどもし、それがそんな理由で捨てられたとその時見て知ったとしたら、生きている可能性は極めて低いですが、万が一生きていたらすぐに逃がすか、そうでなくても土に埋めてあげたくなるかもしれません。それもすごく人間の勝手だなあとは思うけれど」
と言いながらかめくんが私を見たので、

「私も、いや私なら見つけてしまったら可哀想と思いながらもそれがどうしてそうなったのか、またそのままにするとどうなるのか少しの間死んだ魚を観察してしまうかもしれません。迷惑な話かもしれないけれど」とおじいさんに言った。




2021年1月29日金曜日

空のルアー③


「このあたりって釣れるんですか?僕たち釣りってしたことがないんですよ。
とかめくん。うんうんと私も頷いた。

「さあどうなんだろうか?わしももう10年以上釣りをしていないからなあ」とおじいさんがいったので、少し私たちは驚いた。なんだか昨日も今日もずっと釣りをしているかのような雰囲気だったからだ。

「まあ正しくは、ついさっき10数年ぶりに糸を垂らしてみたんだけどね」
「はあ、釣れましたか?」と聞くかめくんにおじいさんは、
「うーん、いやまあ、魚からの返事はあったような。なかったような・・・」と、気になる返事をしたので私もおそらくかめくんも、このおじいさんから色々話を聞きたくなった。

「あ、あの10年以上も釣りをしなかった理由って聞いてもいいですかね」やっぱりかめくんはいつものように我慢できなくなって聞いた。かめくんは人間の内に秘めるものの存在を少しでも感じると、それに対する興味が隠せないたちなのだ。

「わしが釣りをしなかった理由?うーん難しいなぁ。うん、でもきっかけのようなことはあったかもな・・・でもわしも難しく考えすぎたのかなぁ。いや難しい」私は何が難しいのかさっぱりわからなかった。

「何かおじいさんの中で答えが見つからないんですか」そう聞いたかめくんの目は輝いていた。



2021年1月28日木曜日

空のルアー②


「シルバーで疑似餌を作るってことですか!」
若干私の眼は生き生きしていたのではないかと思う。
「へぇ面白そう。わーちゃん作ってみたら?」少し能天気に笑うかめくん。するとおじいさんは急に腰が引けて、
「いや!いい、いい!そんなたいそうなことじゃないんだ。あると思ったわしがばかだった」
「ちょっとまってください!ばかって何ですか!私に作らせてください!」だんだん熱くなる私におじいさんはたじろぐ。
「いやばかって君に言ってるんじゃないんだよ・・・ああ、わしはどうしたらいいんだ!」
おじいさんが頭をかかえたので私もやっと我に返る。

あははは、と軽快にかめくんが笑った。
「わーちゃんまたムキになりすぎだよ」
そう言われて、過去の私がおこした数々のムキになり過ぎエピソードを思い出した。
「本当にすみません!」私は反省しきりでおじいさんに頭を下げた。
「すまないね」おじいさんも私を見上げて照れ臭そうに笑った。





2020年3月18日水曜日

空のルアー①


今日はお店に面白いおじいさんがやってきた。
カランコロンと威勢よくドアベルを鳴らして入ってきて開口一番、
「いやあ、下から見るとこの山は小さく見えるが、ここまで登るとくたびれるな」と、大きな声で笑った。
私とかめ君は急なことに驚いて、「は、はい」などという返事しかできなかった。
こういう時に私たちはいつもおよそ店員らしからぬ対応をしてばかりだと、後になってから後悔し反省する。多分二人とも急な出来事に弱いのだ。

「なにかお探しのものがございますか」店内をうろうろするおじいさんに、かめくんは気を取り直すかのように聞いた。

「ははは、いや、まあ無いよな。あるわけないもんなここに。まあいいんだ、いいんだ。」とおじいさんは言ったので、
「ええと、何をお探し何でしょう」
と私は少しだけムキになっていた気がする。

「うん?つまりあれだ、ほれ」
といっておじいさんは、背中にしょっていた細いリュックのようなケースを開けて、組み立て式の釣り竿を見せた。

赤褐色の木目の美しい木でできた竿が艶やかに光っていて、可愛らしい魚のロゴマークのようなものも描かれている。
私たちはその美しい竿に一瞬で虜になって
「わあ」などと言った。

「これの、餌を欲しくてな。疑似餌、ルアー、メタルジグ何て言ったらわかるかい」
おじいさんは、その美しい竿を慈しむように言った。
それを聞いて戸惑う私たちにおじいさんは続けた。
「いや、実はここの隣のそらまめ工具店?が先に目に入って釣り具はないもんかと探していたんだが、工具店だからまあ無いよな、で次に隣の君らの店が気になって、そこの商品が見える窓からキラキラしたもんが目に入ったものだから」

つまり、おじいさんは外から見えるショーウインドーのシルバーアクセサリーの事を言っているんだと思う。











2020年2月13日木曜日

わかめの日あとがき


今日のwakameダイアリーは、「わかめの日」のあとがきのようなものを書こうかなと思います。

あとがきと言っても、もともとメモ書きのような気楽な気持ちで書いていたんですが、
気が付けばほぼ3年くらいかけて書いてしまいました。

この話はもともと私がわかめや昆布などの海藻が好きで、わかめのデザインの指輪を実際に作った時に思い付いた話です。

登場人物の「イサトさん」は頭の中で男の人になったり、女の人になったりしたんですが、とにかく暗い過去を持った人という感じでした。

話の中でその暗い過去とは何なのか書いてみたかったのですが、何となく書かないで話は終わってしまいました。後々番外編のような感じで、イサトさんの日記を書いてみようかな・・・(多分すごく暗いと思うけど)。

とにかく一番鮮明に思い描いたのは、そんな暗い空気を空に向かってわかめのように手を伸ばしたわーちゃんが吹き飛ばす終わりの場面のイメージでした。
日記に挿絵のような形で場面の絵を載せているのですが、この空に向かって手を伸ばすわーちゃんを元気なイメージにしたかったから、思わず半袖にしちゃいましたが、季節的にわかめの養殖がまだ育ち切っていないという設定なので、寒い季節と自分で設定していたのを忘れていました・・・

そんな感じで、あくまでメモ書きみたいな感じですが、書き終えて頭がすっきりしました。また違う話もたくさん書いていくと思います。

※後から調べなおしたら、わかめの採取する時期は2月頃から始まり、5月頃に最盛期を迎え真夏は休眠期とありましたので、この挿絵もあまり違和感がないのかなと思いました。
本をみて調べたつもりだったのですが、完全に勘違いしていました。話の中の季節が少し間違っていると思います。