「うん、わしもそうやってなんだこれはと、その魚を観察していたんだよ。忘れもしない初めて釣りをしようと見よう見まねで道具をそろえて堤防にいったときのことだ。もう30年も前の話だ。」おじいさんはその時を思い出すかのように、ジェスチャーで干からびた魚を覗き込むふりをした。
「そうしたら、その様子を当時のわしより20くらい若い20代前半くらいの青年にみられてね。どうしたんですかって声をかけられたんだよ」
「ほう」かめくんの少し間の抜けた返事におじいさんは少し気が緩んだ感じになって、
「すまんなぁ退屈だな。こんなじいさんのはなし」といったので、
「いいえ。気になりますその話」かめくんは首を振ると確信に満ちた声で言った。
「うん、だからわしは正直にこの魚が気になってずっと観察をしていたんだといった。そしたら青年は驚いた顔で、その魚は外道と言って釣り人が狙っていた魚じゃないんで、おそらくそこに捨てられたんです。とさも当たり前のように言ったんだ。」
「その日釣りを始めたわしは初めての事だったから、すごくその魚が可哀想になってしまってそのまま海に帰してしまったんだよ。干からびているのに」
かめくんと私はおじいさんの気持ちがわかるから同意するように頷いた。
「青年はええっと驚いてどうしたんですか?なぜ海に捨てるんです?と聞いてきたから、またわしは素直に、可哀想だから海に帰したといった。そしたら青年が笑って面白い人ですねと大きな声でいったんだよ」
私はその話を聞いて「面白いですかね?それ」と素直におじいさんにいってしまった。
おじいさんは私に同じだというような感じで指をさし、
「わしもいったんだよ青年に、面白い?ではどうすればいいんだって。少し腹が立っていたのかもな。人間の安い同情心を笑われた気がして」
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