2021年2月8日月曜日

空のルアー④

 

「答えなぁ…答えと言やぁ。昔堤防に行ったら、からからに干からびた細長い魚が打ち捨てられていたんだよ。これは後から知ったんだが、だれか心無い釣り人が、狙っていた本命の魚じゃないってんで海に逃がさず堤防に捨てたものだったんだ。」

おじいさんは店内に置かれた椅子に腰かけながら言った。
「なぁ君たちならそんな干からびた魚をどうする?」

干からびた魚… 干された魚なら美味しそうと思うはずだが、本命じゃないから捨てられたとなると途端にかわいそうに感じるかもなぁ…と私はため息をついた。

そんな私の気持ちを知ってか知らずか、かめくんも自分の気持ちを整理するかのように「ふむ」と喉の奥から小さな相槌のような音を出した。

「正直、僕なら気が付かないかもしれません。けれどもし、それがそんな理由で捨てられたとその時見て知ったとしたら、生きている可能性は極めて低いですが、万が一生きていたらすぐに逃がすか、そうでなくても土に埋めてあげたくなるかもしれません。それもすごく人間の勝手だなあとは思うけれど」
と言いながらかめくんが私を見たので、

「私も、いや私なら見つけてしまったら可哀想と思いながらもそれがどうしてそうなったのか、またそのままにするとどうなるのか少しの間死んだ魚を観察してしまうかもしれません。迷惑な話かもしれないけれど」とおじいさんに言った。




2021年1月29日金曜日

空のルアー③


「このあたりって釣れるんですか?僕たち釣りってしたことがないんですよ。
とかめくん。うんうんと私も頷いた。

「さあどうなんだろうか?わしももう10年以上釣りをしていないからなあ」とおじいさんがいったので、少し私たちは驚いた。なんだか昨日も今日もずっと釣りをしているかのような雰囲気だったからだ。

「まあ正しくは、ついさっき10数年ぶりに糸を垂らしてみたんだけどね」
「はあ、釣れましたか?」と聞くかめくんにおじいさんは、
「うーん、いやまあ、魚からの返事はあったような。なかったような・・・」と、気になる返事をしたので私もおそらくかめくんも、このおじいさんから色々話を聞きたくなった。

「あ、あの10年以上も釣りをしなかった理由って聞いてもいいですかね」やっぱりかめくんはいつものように我慢できなくなって聞いた。かめくんは人間の内に秘めるものの存在を少しでも感じると、それに対する興味が隠せないたちなのだ。

「わしが釣りをしなかった理由?うーん難しいなぁ。うん、でもきっかけのようなことはあったかもな・・・でもわしも難しく考えすぎたのかなぁ。いや難しい」私は何が難しいのかさっぱりわからなかった。

「何かおじいさんの中で答えが見つからないんですか」そう聞いたかめくんの目は輝いていた。



2021年1月28日木曜日

空のルアー②


「シルバーで疑似餌を作るってことですか!」
若干私の眼は生き生きしていたのではないかと思う。
「へぇ面白そう。わーちゃん作ってみたら?」少し能天気に笑うかめくん。するとおじいさんは急に腰が引けて、
「いや!いい、いい!そんなたいそうなことじゃないんだ。あると思ったわしがばかだった」
「ちょっとまってください!ばかって何ですか!私に作らせてください!」だんだん熱くなる私におじいさんはたじろぐ。
「いやばかって君に言ってるんじゃないんだよ・・・ああ、わしはどうしたらいいんだ!」
おじいさんが頭をかかえたので私もやっと我に返る。

あははは、と軽快にかめくんが笑った。
「わーちゃんまたムキになりすぎだよ」
そう言われて、過去の私がおこした数々のムキになり過ぎエピソードを思い出した。
「本当にすみません!」私は反省しきりでおじいさんに頭を下げた。
「すまないね」おじいさんも私を見上げて照れ臭そうに笑った。





2020年3月18日水曜日

空のルアー①


今日はお店に面白いおじいさんがやってきた。
カランコロンと威勢よくドアベルを鳴らして入ってきて開口一番、
「いやあ、下から見るとこの山は小さく見えるが、ここまで登るとくたびれるな」と、大きな声で笑った。
私とかめ君は急なことに驚いて、「は、はい」などという返事しかできなかった。
こういう時に私たちはいつもおよそ店員らしからぬ対応をしてばかりだと、後になってから後悔し反省する。多分二人とも急な出来事に弱いのだ。

「なにかお探しのものがございますか」店内をうろうろするおじいさんに、かめくんは気を取り直すかのように聞いた。

「ははは、いや、まあ無いよな。あるわけないもんなここに。まあいいんだ、いいんだ。」とおじいさんは言ったので、
「ええと、何をお探し何でしょう」
と私は少しだけムキになっていた気がする。

「うん?つまりあれだ、ほれ」
といっておじいさんは、背中にしょっていた細いリュックのようなケースを開けて、組み立て式の釣り竿を見せた。

赤褐色の木目の美しい木でできた竿が艶やかに光っていて、可愛らしい魚のロゴマークのようなものも描かれている。
私たちはその美しい竿に一瞬で虜になって
「わあ」などと言った。

「これの、餌を欲しくてな。疑似餌、ルアー、メタルジグ何て言ったらわかるかい」
おじいさんは、その美しい竿を慈しむように言った。
それを聞いて戸惑う私たちにおじいさんは続けた。
「いや、実はここの隣のそらまめ工具店?が先に目に入って釣り具はないもんかと探していたんだが、工具店だからまあ無いよな、で次に隣の君らの店が気になって、そこの商品が見える窓からキラキラしたもんが目に入ったものだから」

つまり、おじいさんは外から見えるショーウインドーのシルバーアクセサリーの事を言っているんだと思う。











2020年2月13日木曜日

わかめの日あとがき


今日のwakameダイアリーは、「わかめの日」のあとがきのようなものを書こうかなと思います。

あとがきと言っても、もともとメモ書きのような気楽な気持ちで書いていたんですが、
気が付けばほぼ3年くらいかけて書いてしまいました。

この話はもともと私がわかめや昆布などの海藻が好きで、わかめのデザインの指輪を実際に作った時に思い付いた話です。

登場人物の「イサトさん」は頭の中で男の人になったり、女の人になったりしたんですが、とにかく暗い過去を持った人という感じでした。

話の中でその暗い過去とは何なのか書いてみたかったのですが、何となく書かないで話は終わってしまいました。後々番外編のような感じで、イサトさんの日記を書いてみようかな・・・(多分すごく暗いと思うけど)。

とにかく一番鮮明に思い描いたのは、そんな暗い空気を空に向かってわかめのように手を伸ばしたわーちゃんが吹き飛ばす終わりの場面のイメージでした。
日記に挿絵のような形で場面の絵を載せているのですが、この空に向かって手を伸ばすわーちゃんを元気なイメージにしたかったから、思わず半袖にしちゃいましたが、季節的にわかめの養殖がまだ育ち切っていないという設定なので、寒い季節と自分で設定していたのを忘れていました・・・

そんな感じで、あくまでメモ書きみたいな感じですが、書き終えて頭がすっきりしました。また違う話もたくさん書いていくと思います。

※後から調べなおしたら、わかめの採取する時期は2月頃から始まり、5月頃に最盛期を迎え真夏は休眠期とありましたので、この挿絵もあまり違和感がないのかなと思いました。
本をみて調べたつもりだったのですが、完全に勘違いしていました。話の中の季節が少し間違っていると思います。




2019年12月24日火曜日

わかめの日㉔


かめくんが戻ってきてからは、私たちはなぜだか潮が引いていくかのように帰り支度をし、当然のように3人黙って玄関まで行った。

私はわかめの資料をいくつかイサトさんから貸していただいた。すぐにお返ししますと言うと、「ゆっくりで」とイサトさんは今ここにはない先の事をすでに約束したかのような優しい、でも少し心ここにあらずといった顔をした。

それで私も黙ってうなずいて玄関を出て少し前の道まで進んでいったが、かめ君とイサトさんはまだ玄関口で少し何かを話しているように見えた。

それから二人はお互い頭を下げて挨拶をした。イサトさんは再び私のほうを見て「うん」というように頭を下げ、手を振った。私も深く深く頭を下げた。

イサトさんが家の中に帰っていき、私たちは帰り道、また海岸の方に寄ってみることにし
た。

道すがら一応かめくんに聞いてみた。
「ねぇ、かめくん。アトリエから出てきたときすごく複雑な顔をしていたように見えたけど大丈夫だった?何かあった?」するとかめくんは、
「うん、うーん?複雑?そうか複雑か…いったい何と言ったらいいのか、いや言っていいのか、何だったんだあれは、あれでよかったのか?」などと言ったので、
うん、そっとしておこう。と思った。

いつもなら私は好奇心に負けて、無理矢理でもかめ君から聞き出そうとする性分なのだけれど、特別きょうのかめくんは混乱しているように見えた。

海岸に着き、潮風に当たっていたらかめ君がふと
「でも僕はどうしたって、自分が興味を持ってしまったら、ましてやその人が扉を開けてくれたら入ってしまうたちなんだ」と言ったので、何て言ったらいいのか分からなくなった。

----私は、どうなんだろう…。
私はどちらかというと人より自分。自分の心を覗いて、好きなことをささやかでもいいから集めて積み重ねていきたいかな…等と考えていた。

だから私は私で、思わぬなりゆきで今日という日をこんな風に過ごせて、満足しているのだ。(色々な人にお世話になり、また迷惑をかけながらも…)

遠くの水平線を見ていたら後ろからかめくんが、
「ねぇわーちゃん、結局今日は何の日だったんだろう?」
と聞いてきたので、私は海に向かって
「わかめの日!」と叫んだ。






   おわり

2019年9月24日火曜日

わかめの日㉓


「・・・はい」と、イサトさんに返事をしたのは、
まるっきりその気持ちが分からないというわけではなかったから、特に『生きていると不運が予兆もなく・・・』という所。私はイサトさんほど年を重ねた訳ではないけれど、物事の大きさ関係なくそういう事はやはり生きているとあると思うし、実際私も経験した。(もちろん今回の何の日か決めようイベントの件ではなく・・・)

大体、何か不幸が起きた時にそれがその人にとってどれだけ大変な事かなんて、他人には図れない。他人にとって『なんだそんなこと・・・』と言われてしまうようなことだとしても、その人にとっては人生で最大の難関だと感じる場合もあるだろうし、実際それはその人にとって間違いなく『大変な事』で、そういう時に感じる気持ちは皆通ずるものがあると私は思う。

この時、なぜか私は今日初めて会ったイサトさんに、心の内をすべてさらけ出して話したいという感情を持った。何がそうさせるのかはわからなかった。

けれどイサトさんは、それに対してうんうんと無言で頷いた後は、また窓の外を見つめ続けた。

道半ば・・・イサトさんの横顔を見ていたら、漠然とそんな言葉が浮かんできた。
まだ何かがイサトさんの中ではっきりと決まっていない感じ、未完成の作品、決着がついていない出来事。そんなところだろうか。

作品だとしたらあのわかめの絵は、迷いの感情・曖昧な色合いと自身で評価していたが、私はそれすらも何かメッセージのこもったものとして受け止めた。はっきりいうと未完成には見えなかった。(もちろん私が決められることではないけれど)
では出来事だろうか?何か他人の絡んでいる、例えば誰かを待っているようにも見える。 待っているってかめくんの事?いやいや確かに読み終わるのを待っているだろうけど、
私たちは今日知り合ったばかりだし・・・

そこまで考えて、「あ・・・」と私は声に出しそうになって慌ててそれを抑えた。
あの日記、確か暗い内容だとイサトさんが言っていた。あの中にその「大変な事」が、
書かれているとしたら・・・決着がついていない出来事の一部始終が。

ああ~なぜそれに気が付かなかったんだろう・・・私も彫金のモチーフの事で頭がいっぱいになっていたし、暗い内容と言ってもせいぜいイサトさんの、例えば絵を描くときに悩んでいた気持ちや、メモ書きのようなものだろうと都合よく解釈していた。

・・・ということは、かめくんは想像以上に重い内容の日記と向き合っていることになる。
ただでさえかめくんは、他人の感情に共感しやすいのに大丈夫だろうか?

などと考えていたらアトリエの少し開いたドアがグイッと開きかめくんが姿をあらわした。

顔色は少し紅潮し、僅かに焦点も定まっていない!
あらら・・・やはりそうか、と思った。