2018年4月16日月曜日
わかめの日⑮
するとkameくんも、
「そうなんです!僕たちあの組合長さんにははっきり言って怒っていまして、書き換えられていて何だか嬉しかったんです」
といってくれたので救われた気持ちになりました。
するとイサトさんも、
「じゃあ僕が組合長さんに対する仕返しに、一役買ったというわけだな」
と言い、また朗らかに笑ったので私達も頷きながら笑いました。
それはとても素敵な時間だと思って、今がずっと続けばいいと不思議な気持ちにさせました。
そんな気持ちもあり、どこかで焦ってしまったのかもしれませんが、
まだニコニコしている二人に私は、
「あの、わかめの事を詳しく教えてくれませんか?私は彫金でアクセサリーを作っているのですが、そのモチーフにしたいのです」と言いました。
「それは、僕の会社のわかめを育てているところを見せたらいいのかな?
ただ今の時期は植え付け直後で誰も作業をしていないし、養殖縄にも小さな芽が巻き付けてあるだけなんだよ」とイサトさんは言って少し考えたあと、
「よし!じゃあ今から君たち僕の家に来るかい?家ならわかめの資料がたくさんあるよ」
と言ってくださったので、
「ありがとうございます!」と私は言って、kameくんもぺこりと頭を下げました。
わかめの日⑭
ひとしきり笑った後、
「なぜわかめの日と書き換えたんですか?」と単刀直入に聞くと、
イサトさんの顔から笑顔が消え、少しの間沈黙してから、
「自分にとって何が一番大切かを考える日」
とつぶやきました。その目はどこか遠くを見ているようでした。
私達がきょとんとしていると、イサトさんはふと我に返り、
「そう掲示板には最初書いてあったんですよ。僕は昔からそういう難しいことを言われると、何かしら反発心がむくむくと湧き上がってくるようなひねくれた人間なんです」
と少し笑ってそういいながら、足元の空間に持っていた乾燥ワカメで、くねくねと八の字を描いていました。
そうしてからその作業もやめ、今度はまっすぐ私たちの方を交互に見てから、
「すまなかったね。何か君たちに迷惑をかけてしまったんじゃないだろうか?」
といったので、私のほうこそ嫌なことを忘れるためにただ楽しんでいただけなのかなと申し訳ない気持ちになり、
「いいえ、とんでもないです!」と言いました。
2018年4月10日火曜日
わかめの日⑬
その男の人は、加工品店の店長さんの言う通りの人だった。
・初老で頭が少し白髪交じり
・背がひょろりと高い
・笑うと目じりにしわがよってとても良い笑顔
・そして何より独特の雰囲気(言葉には表現しづらいのだけど、良い意味で子供のまま大人になったような、マイペースそうな・・・飄々としている?とにかく独特の空気を醸し
出しています)
私はこの人に間違いないと思ったので、店長さんから預かった小さなメモをその人に渡しました。
そして簡単な自己紹介をし、事のいきさつを話しました。
男の人はメモを読むと、あとは私たちの話を静かに聞いていました。
男の人は僕の名前はイサトですと言い、その大きな手で私たちと握手をすると、
小さなメモをズボンのポケットにしまいながら、にやりとわらって
「それで刑事さんたちは、『わかめの日』と掲示板に書き換えた犯人は私だと言いに来たのかい?」
と言ったので私は思わず笑ってしまい、後は三人で大笑いしました。
わかめの日⑫
勇気を振り絞ってその男の人にかけた第一声が、
「私達はポプラ通りから来たものです。」という言葉でした。
ポプラ通りとは、私たちの店「MILUZDROP」がある山の中腹に作られた商店街の名前です。
とはいっても、商店街の街路樹にはポプラは所々しか植えられておらず、ポプラはそうたくさんありませんが、商店街の裏手にはポプラ並木があり、さらにその道を進んでいくと森の中のけもの道となって、やがて山の頂上に到着します。
さすがに山の頂上は商店街からは見えませんが、ポプラ並木は十分な迫力を持って商店街を見下ろしているかのように見ることが出来ます。
そして初夏になるとポプラの綿毛がたくさん商店街にも飛んできて、
まるで初夏に雪が降っているかのような見事な景色が見られます。
また、そのことについては書きたいことがあるので別の機会に書かせてもらいます。
話がそれましたが、その人は私たちの突然の自己紹介にも動じることなく、
「ポプラ通り?・・・ああ、あの山の中腹の!」と言って、
目じりにしわを寄せ、にっこりと笑ってくれたので私は少しほっとしました。
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