2023年2月5日日曜日

洞窟エントランスのオブジェ⑦

 噴水の吹き出し口から水がゆるく持ち上がり揺蕩うさまは、この場所の持つどっちつかずの状況からくる曖昧な雰囲気を表しているかのようだった。

小さな水の音の反響音が聞こえて、時間がゆっくりと流れているようにも感じた。

「もうこの辺りで食べちゃいません?お腹がすいちゃって」
竹製のランチボックスを持ち上げながらホソミさんは言った。
「私もさっきからお腹が鳴りっぱなしで」と頷きながら私が言ったので、
ホソミさんはじゃ食べましょうと噴水の淵に促した。
「水の流れも激しくないし、ちょうどいいですね」と私も言い、並んで座り食べることにした。

ホソミさんは平静を装っていたけど、少しそわそわしているようにも見えた。
開けるのが少し複雑そうな竹製のランチボックスを慣れた手つきで開け、二人の間に置いた。
「こんなので良かったでしょうか?どうしてもこのレシピが作りたくて」

サンドイッチは2種類あった。ホソミさんによると、このサンドイッチのテーマはグリーンなのだそうだ。一つはおかず感覚のサンドイッチ、とても変わっていてパンは普通のパンなのだが、淡いグリーンの澄んだゼリー寄せ風テリーヌが挟んである。テリーヌの中には細かく切った花びらのようなピンクのハムが散らばり、細く割いたチキンと、細かく刻んだクレソンがふわふわ浮いている。

これもホソミさんの説明によると、このテリーヌは睡蓮が浮かぶ池をイメージしているのだそうだ。
あとのもう一つは、濃いブラウンのケーキ生地に、これもまた綺麗なグリーンのクリームがサンドされている。

「これはグリーンソースがかかったチョコブラウニーをイメージしています。グリーンソースといってもクリーム系の甘いソースです。サンドイッチとして挟みやすくするために、テリーヌにも使ったゼラチンが少し入っています。」とホソミさんは言いながら、大きなランチボックスの上蓋ポケットから、手ごろなサイズの分厚い本を取り出した。

「これ、例のサンドイッチの本です。持ってきちゃいました、このレシピはここです」
と言いながらホソミさんは、本に付いている紐の栞が挟まれたページを開いた。











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