「それから20年ものあいだ、休みになれば彼と一緒に釣りへ行った。彼もわしの事を気に入ってくれたのかな。家族ぐるみで仲良くなってね、当時まだ10代だった息子と3人でもよく釣りに行ったな。車の運転はわしがしてどこへでも行った。楽しかったなぁ」
おじいさんは懐かしそうに目を細めた。
「彼と釣りをした最後の年、彼ももう40をとうに過ぎていた。私生活でも色々あったのかな。でも彼はそういった話は全くと言っていいほどしなかった。だから彼の事は、わしは何にも知らなかった。とにかくあの年彼は何となく元気がないような、覇気がないような不思議な感じだったな。いつもとかわらず明るく振舞っていたけどね」
「何かあったんですかね?」かめくんが思わず聞いた。
「さあなあ…本当に彼は何も話してくれなかったから、今でも分からずじまいだ。わしが彼について知っているのは、当時よく釣り場で会った彼の親せきが一人いるくらいだ。彼の叔父だったかな。たまに彼も一緒に釣りをしていたけれどね」
私はなぜか急に窮屈な普段の生活の話など全くせず、ただひたすら楽しそうに釣りをする彼らの姿が目に浮かんだ。釣りの楽しさってそういう所もあるのかな。などと考えた。
「とにかくあの最後の年は、わしも彼も全く魚が釣れなかった」