2023年12月16日土曜日

洞窟エントランスのオブジェ⑨

 静かな水の反響音が聞こえる中で、噴水の淵に座り時おり天井を見上げて垂れ下がる観葉植物を眺めたりしながら、私たちはその美味しい物を食べ終えた。

ふう、と一息つきホソミさんが立ち上がりパッパッと音を立て膝についていたパンくずを
掃った。そして、あ、と言って今まで座っていた反対側の方へと歩いて行った。

「こっちです、こっち、わーちゃんさん」
嬉しそうに手招きするホソミさんに呼ばれて行ってみると、二階部分と一階部分を繋ぐ
大きな柱に隠れるように大きなオブジェがあった。

これは、巨大な石だろうかそれとも石膏か何かで作られたものだろうか、とにかくとても美しい鮮やかな水色に近い青色の、所々ボコボコとしているけれど、つるつるとしていてまるで発光しているかのように光っている石が白い大きな台に立っている。そして黄金のような、磨かれた真鍮製のようにも見える繊細で小さな四角のような幾何学模様が、その石の所々に覆いかぶさっているのだ。

「こんなのがあるって、私前回来たときは気づきませんでした」
青い石の表面をなぜながらホソミさんは言った。
「この光り方は真鍮ですかね」
私は彫金師という仕事柄そっちの方に目がいった。
「どうなんでしょうかねえ、あ、わーちゃんさんこのオブジェあれにそっくりです。あれ、あれ!」
「こんなのに、何か似ているものがあるんですか?」
「ええ、来るときにバスの中で言った例のゲームですよ。あれの体力回復に使う何かこういう機械みたいなのにそっくりなんです」
「はあ…」いまいちピンとこない私をよそに、
ホソミさんは続けた。
「こういうのが町の所々に備え付けられていて、それこそこういうダンジョン入口のエントランスにもあるんですよ」ニヤッとホソミさんは笑った。

確かにどういう風に作られたのかはわからないが(中に無限に切れないぼんやりとした電球をいれたのか、はたまた不思議な塗料で色を塗ったのか、それとももしかしたら何か本物の石を加工したのか)それは怪しい光がゆらゆら動いているようにも見え、それを見続けていると何だか異世界に迷い込んだような不思議な気持ちになった。

「これを見ていると私も何故かゲームの世界に入ったような気がしてきました」
私がそういうとホソミさんは嬉しそうに言った。
「じゃあ、わーちゃんさん、こうです。『私たちは回復する』」
ホソミさんは石に手をかざしながら、ゆらゆらと不思議な動きで呪文を唱えるように言った。
「何ですかそれ」と少し笑って言うと、ホソミさんはそんなこと気にしないかのように私を促した。
「一番最初にこの機械を使うときにこう言うんです。さあご一緒に」
「私たちは回復する」
そう言いながら、ホソミさんと二人でゆらゆらと不思議な動きをした。