2021年1月29日金曜日

空のルアー③


「このあたりって釣れるんですか?僕たち釣りってしたことがないんですよ。
とかめくん。うんうんと私も頷いた。

「さあどうなんだろうか?わしももう10年以上釣りをしていないからなあ」とおじいさんがいったので、少し私たちは驚いた。なんだか昨日も今日もずっと釣りをしているかのような雰囲気だったからだ。

「まあ正しくは、ついさっき10数年ぶりに糸を垂らしてみたんだけどね」
「はあ、釣れましたか?」と聞くかめくんにおじいさんは、
「うーん、いやまあ、魚からの返事はあったような。なかったような・・・」と、気になる返事をしたので私もおそらくかめくんも、このおじいさんから色々話を聞きたくなった。

「あ、あの10年以上も釣りをしなかった理由って聞いてもいいですかね」やっぱりかめくんはいつものように我慢できなくなって聞いた。かめくんは人間の内に秘めるものの存在を少しでも感じると、それに対する興味が隠せないたちなのだ。

「わしが釣りをしなかった理由?うーん難しいなぁ。うん、でもきっかけのようなことはあったかもな・・・でもわしも難しく考えすぎたのかなぁ。いや難しい」私は何が難しいのかさっぱりわからなかった。

「何かおじいさんの中で答えが見つからないんですか」そう聞いたかめくんの目は輝いていた。



2021年1月28日木曜日

空のルアー②


「シルバーで疑似餌を作るってことですか!」
若干私の眼は生き生きしていたのではないかと思う。
「へぇ面白そう。わーちゃん作ってみたら?」少し能天気に笑うかめくん。するとおじいさんは急に腰が引けて、
「いや!いい、いい!そんなたいそうなことじゃないんだ。あると思ったわしがばかだった」
「ちょっとまってください!ばかって何ですか!私に作らせてください!」だんだん熱くなる私におじいさんはたじろぐ。
「いやばかって君に言ってるんじゃないんだよ・・・ああ、わしはどうしたらいいんだ!」
おじいさんが頭をかかえたので私もやっと我に返る。

あははは、と軽快にかめくんが笑った。
「わーちゃんまたムキになりすぎだよ」
そう言われて、過去の私がおこした数々のムキになり過ぎエピソードを思い出した。
「本当にすみません!」私は反省しきりでおじいさんに頭を下げた。
「すまないね」おじいさんも私を見上げて照れ臭そうに笑った。