今日はお店に面白いおじいさんがやってきた。
カランコロンと威勢よくドアベルを鳴らして入ってきて開口一番、
「いやあ、下から見るとこの山は小さく見えるが、ここまで登るとくたびれるな」と、大きな声で笑った。
私とかめ君は急なことに驚いて、「は、はい」などという返事しかできなかった。
こういう時に私たちはいつもおよそ店員らしからぬ対応をしてばかりだと、後になってから後悔し反省する。多分二人とも急な出来事に弱いのだ。
「なにかお探しのものがございますか」店内をうろうろするおじいさんに、かめくんは気を取り直すかのように聞いた。
「ははは、いや、まあ無いよな。あるわけないもんなここに。まあいいんだ、いいんだ。」とおじいさんは言ったので、
「ええと、何をお探し何でしょう」
と私は少しだけムキになっていた気がする。
「うん?つまりあれだ、ほれ」
といっておじいさんは、背中にしょっていた細いリュックのようなケースを開けて、組み立て式の釣り竿を見せた。
赤褐色の木目の美しい木でできた竿が艶やかに光っていて、可愛らしい魚のロゴマークのようなものも描かれている。
私たちはその美しい竿に一瞬で虜になって
「わあ」などと言った。
「これの、餌を欲しくてな。疑似餌、ルアー、メタルジグ何て言ったらわかるかい」
おじいさんは、その美しい竿を慈しむように言った。
それを聞いて戸惑う私たちにおじいさんは続けた。
「いや、実はここの隣のそらまめ工具店?が先に目に入って釣り具はないもんかと探していたんだが、工具店だからまあ無いよな、で次に隣の君らの店が気になって、そこの商品が見える窓からキラキラしたもんが目に入ったものだから」
つまり、おじいさんは外から見えるショーウインドーのシルバーアクセサリーの事を言っているんだと思う。