2019年5月4日土曜日

わかめの日㉒


私は元にいた部屋のダイニングチェアに再び座り、テーブルに置いたままのワカメの資料をもう一度見直した。

しばらくたつとアトリエからイサトさんだけが出てきて、ドアを完全には閉めず、ほんの少しだけ隙間を空けてから、テーブル越しの斜め向かいに座った。

なぜ、ドアを完全に閉めないんだろう・・・
隙間からかめくんが見える、
アトリエの床に座り、本棚の脇に置かれたミニテーブルの上に先ほどの日記を乗せて読んでいた。

イサトさんは、相変わらず穏やかな表情をしているが、僅かに緊張しているようにも見えた。

斜め向かいでテーブルに肘をつき、手に顎を乗せ何となく窓の外を見ている。

私が資料を見るのをやめて、そんなイサトさんの表情に気をとられているのに気付くと、
イサトさんは一瞬私と目を合わせ、再び窓の方に顔を向けると、ついでのように言った。

「大げさかもしれませんが、生きていると不運が予兆もなく、大きなうねりを伴った波のように襲ってくる時がありませんか?いや、予兆はあったのかもしれないが、僕が気が付かなかっただけかもしれない。あのわかめの絵はまさしくそのうねりの中で、自分の心を落ち着かせるために描いたものです。」