「あの、さっきから気になっていたんですけど、このドアにアトリエって書いてますが、なにか制作をされているのですか?」とかめくんは言った。
見ると確かに部屋に入ってすぐ左手にドアがあり、そのドアにはatelierと書いてあるプレートが掛かっている。私は部屋に入った時にわかめの資料の事で頭がいっぱいだったから気が付かなかった。
「ああ、これは昔油絵を描いていた時があったんですよ。中を見てみますか?」
と言ったので入れてもらうことに。
中に入ると懐かしい雰囲気というのだろうか、昔の外国映画にでも出てきそうな感じ。
背の高い本棚が沢山あって、本棚の脇には一つだけ木でできたミニテーブルが置かれている。そのほか所々には描きかけのキャンバスが数点本棚に添って立てかけられている。
正面の壁には、確か外からこの家を見たときに海外の家の窓みたいだなと漠然と思った上げ下げ窓が二つ付いている。そしてその窓の光を十分に浴びている場所に大きなキャンバスが一つ、他のどのキャンバスよりも存在感を放っていた。
それを見てイサトさんは懐かしいような目で、
「ああ、これは一時期、一番熱心に描きこんでいたわかめの絵です」といった。